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2011年4月 6日 (水)

結局、これが私の仕事...

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オリバー・ストーンが自らの体験を元にして制作したと言われる映画「プラトーン」。

この頃、アメリカ国内でも「ベトナム戦争再評価」の動きがあったせいなのかどうかはよく判らないが、エンターティメント的ではあったが、それなりに重いテーマを描いた作品であった。

当時学生だった私は後輩(年齢的には私より年上)とこの映画を見たのだが、その彼の感想は以外にも「カッコよかった。」だった。

一瞬、自分の耳を疑いつつも再び聞いてみると、彼は屈託のない表情でこう言っていた。

「銃撃戦とか、ヘリコプターとか...スゴいですよね。」

そんな彼の言葉に愕然としつつも、私が確認した事。

どんなに頑張って作品に思いを込めても、
それが(正確に)伝わるとは限らない!


     *     *     *

こんな話もあります。

ミュンヘンに滞在していた当時、地元の美術学校の作品を見る機会があったが、中にこんな作品があった。
箱の中にゴム手袋が2つ固定されていて、空気を送り込むとこのゴム手袋が膨らみ握手をするように絡み合う、という物だった。

これを作ったのは、当時紛争の火種をアチコチで抱えていた東欧から来た学生で、彼にとってはいたって真面目な気持ちで制作した作品ではあったが、正直、そのチープさばかりが目に付き、彼の思いは私には伝わって来なかった。
そして私はこの時こうも思った。

作品に一定の完成度がなければ、
どんなにテーマが立派でも、見る人には伝わらない!


     *     *     *

そして震災後のある日、私は何となくシスティーナ大聖堂のミケランジェロの天井画の図版を観ていた。

そこで「アダムの創造」に描かれている神とアダムの手を観て、愕然とした。
(こんな感じの絵です⇒Click

悪夢のような映像がテレビモニターの中に溢れ、「目をそらしてはいけない!」と思いつつも、見続ける事でどんどん消耗して行く自分の心。

そんな疲れきった心に、5〜600年も前に描かれた作品が、こんなに響いて来るとは正直、驚きであった。

私自身、キリスト教の信者でもないし、またこの作品自体、誰かの心を癒そうとか思って描かれた訳でもない。

もちろん作家のミケランジェロには、この作品で何か伝えたいモノがあったかもしれないが、それは少なくとも、500年後に起こる大地震とは何の関係もない事であっただろう。

にも関わらず、現在を生きる私の心に何かを響かせてくれる...

これこそが本当の意味で「時代や歴史を超えた名作」なんじゃないかと思ってしまう。



冷静に考えれば、この作品を、こんな風に観ているのは私だけであれば、これもまた私の勝手な思い込みでしかない。
でもこの作品を見て改めて確信した事は、

名作とは、
そこに描かれたテーマをはるかに越えて、
人々の心を揺さぶるもの


     *     *     *

今、多くの作家さんたちが「何かやらなきゃならない」と思って、半ば焦っていたり、慌てたりしているような所が時々見られます。

もちろん誰かが困っている時に手を差し伸べる事は間違いなく正しい事ですし、それは「人」として素晴らしい行為だと思います。

でも私はそれが『「作家」としてすべき行動なのか?』と問われると、「私」はちょっと違うと思うのです。


何があろうと...

私は、私のためだけに絵を描きます。

私は私の見たい風景を再現するために、これからも絵を描いていくでしょう。



それが私の選んだ仕事なんですから。



結局の所、私が被災した方たちのためにできる事があるとすれば、
一生懸命真面目な気持ちで作品を作り、
それを被災地の人たちに見せる事だけなのだ


そう強く確信しています。

近い将来、そんな事ができればいいのかな、と漠然と思っています。

もちろん、「誰か」のためじゃなく「自己満足のため」です。

そんな事で誰も救われないかもしれないけれど、それ以外に、私にできる事なんかないんです。



《追記》震災の後、否応なく自分の中で何かが変わった。
    その事が今後の制作にどう影響するかは判らないけれど...





中野修一公式ウェブサイト/この世界のカケラを眺めながら
http://homepage.mac.com/sekainokakera/

Shuichi NAKANO official website / English edition
http://homepage.mac.com/sekainokakera/eng/top01.html


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